「セックスレス」という言葉には、どこか「解決しなければならない問題」というニュアンスが漂っている。
月に1回以下の性交渉を「セックスレス」と定義するなら、日本の既婚カップルの半数以上がそれに該当するというデータもある。そんなに多くの人が「問題」を抱えているのか——というと、話はそう単純ではないと私は思う。
「したくない」の背景にあるもの
セックスレスには、大きく分けて二つのパターンがある。
ひとつは、どちらかが「したい」のにできていない状態。もうひとつは、双方が「なんとなくしていない」状態だ。この二つは全く異なる問題を抱えている。
前者の場合、「したい側」には満たされない欲求と、それに伴う自己否定や孤独感がある。「自分が求めても断られる」という体験が続くと、求めること自体をやめるようになる。これは関係性の深刻なひびだ。
後者の場合、どちらかが「疲れている」「タイミングが合わない」という状態が慢性化していることが多い。これは問題というより、二人の生活が優先していることの反映だ。
スピリチュアルな視点から見ると
タントラや東洋の伝統的な思想では、性的なエネルギーは「二人の間を流れる生命力」として捉えられる。
この視点に立つと、セックスレスは「エネルギーが流れていない状態」として見えてくる。それは性的な意味だけでなく、感情的な繋がり、身体的な接触、言葉ではない対話——そういったものが細くなっているサインとも読める。
「なぜ流れなくなったのか」を問うことが、解決への入口になる。忙しさか、溜め込んだ感情か、単純な慣れか。それぞれに、違うアプローチが必要だ。
「解決」より「理解」を先に
セックスレスを「解決しなければならない問題」として扱うとき、往々にして起きるのは、表面だけを変えようとする動きだ。
旅行に行く、新しいことを試す、道具を使う——そういったアプローチが効くこともある。でも、根っこにある「二人の間で何かが細くなっている」という問いを避けたまま表面だけを変えても、長続きしないことが多い。
だから私は、「解決」より「理解」を先に置きたいと思っている。今、二人の間に何が起きているのかを、批判なく見ること。それができてから初めて、何をするか考える。
関係を少しずつ取り戻すための段階
「理解」ができたら、次は小さく動いてみる。いきなりセックスを目標にしないことが、遠回りに見えて一番の近道だと思う。どの段階も、どちらかが嫌だと感じたらそこで止まっていい。
- 言葉を戻す:「最近どう?」「今日は疲れた?」——性の話ではなく、相手の今日に関心を向ける会話を増やす。触れる前に、まず関心が戻ってくることが大切だ
- 自分の感覚を戻す:一人の時間に、ボディスキャンや骨盤呼吸で、自分の体の感覚に気づく練習をする(瞑想と身体感覚)。自分が何を心地よいと感じるかを知らないまま、相手に伝えることは難しい
- 性的でない触れ合い:手をつなぐ、肩に手を置く、ソファで背中を寄せる。「その先」を期待しない触れ合いを、日常に少しずつ戻す
- 時間を決めて触れる:週に一度10分だけ、服を着たまま、交代で背中や腕に触れる。触れる側は相手の反応を感じることだけに集中し、触れられる側は「こうしてほしい」を一言だけ伝える
- 官能をゆっくり戻す:ここまでで安心が戻ってきたら、触れる範囲や時間を二人の合意で広げていく。急がない。戻りたくなったら、前の段階に戻ればいい
たとえば、夫と話せるようになったあと、私たちがまず始めたのは、寝る前に数分だけ手を重ねることだった。それだけの時間が、何も言わなくても「まだつながっている」と感じさせてくれた。
どちらかが体の痛みや強い拒否感を抱えている場合は、無理に進めず、医療機関やカウンセラーに相談することも考えてほしい。
セックスレスは、問題である場合もある。そうでない場合もある。
大事なのは、二人の間に「言えないこと」が溜まっていないか。「求めること」を諦めていないか。そこを見ることだと思う。